男というものは何だかんだと沽券というものにこだわる?








 真ん丸の月が刻々と欠ける。

 その日のお天道様が上るほんのわずか前の、夜明けの青の、空の下。

 草臥れ気味の制服の上着を肩にぶら下げ、ひっそりとした靴音を立て、歩く男の後姿。

 見知った顔にも、そうでない顔にでも、誰にも見られないように、誰かに見つからないように。

 青の青、真っ青な青に、夏の蒸し暑さのように噎せた常夜を思い出しては耽る自分に、少しの罪悪感を覚えた。

 こういう思いはいつだって感情とは裏腹である。

 ベストの中ポケットから煙草を取り出して深い息をつく。

「夜明けか・・・」

 薄ぼらけの朝日を臨み、紫煙を吐き出す。

 その紫煙に含まれた、甘い匂い。

 脳内に蘇る、噎せる熱と、生温い囁きとは程遠い、詰り合う様な交わり。

「アイツ、ヤる前には甘いもの食うなって言ったのに・・・。口の中、気持ち悪いったらありゃしねぇ」

 口の中が異常に甘い。  

 その交わりとは比例しない、煙草でも消えない、口付けの甘さ。

 やる前にもやった後にも、奴は甘いものを食べるのだから、当然といえば、当然なのだが。

『あー・・・コレほら、俺の主成分だからさー・・・切れると持続しねーんだわ、色々と』

 本当にヤル気があるんだか、ないんだか(ないのだろう、多分、全てにおいて)、そんな声でそういう奴の片腹に決めてやろうという拳は

いつだってかわされてしまう。

『仮にも組み敷く側に殴られるなんてーのは、男としては恥以外の何物でもねーじゃないか』

 そもそも何につけてもやる気がない、死んだ魚の目をしておいて、それでも然も当然と言い放つ。

 呆れ半分、いや悔しさ半分でいるといつの間にか身包みを剥がれ、上げた自声は艶を帯びていて、自分でもそんな自分に呆れ返る。

 だが、奴の掌やざらりとした舌で辿り与えられる刺激は、大概に心地がいい。

 連れ込み宿だとお互いに身ばれが心配だと、いつだって体を合わせる場所は無人の神社の社だの、寺の仏殿の中だったり。

 やってることは屋根があるだけのほぼ青姦で、この分じゃ神様か仏様かに罰を与えられても仕方ねえなと嘯きながらも、やることは

しっかりとやって、飢えているのであろう思いをぶつけ合う。

 何ゆえに、それほどまでに身体が飢えているのか、互いにそれを語ることはない。

 ただ、禊の水もない場所で、よりその体臭を感じながら無意味なまでに己が熱を高め合いながらも・・・。

 コトが済めば、何事もなかったように2人は別々の場所に帰っていく。

 こういう関係が一番気楽なのだと、ポケットの中にある小銭を賽銭箱に放り投げて背中を向け合う。

 ・・・あの男と出会って幾年。

 他の誰にも知られていないこんな関係を、2人はずっと続けてきた。

 本当に、誰もが気づいていないと思う。

 人前でお互いに顔を合わせれば喧嘩腰で、誰も自分と奴がこういう関係だと疑うはずもない。

 ただ、夢を求めて武州を出た時から既に幾年。

 こんなことになっているだなんて、想像すらしていなかった。

 ただ、あれから・・・。

 ただ、時代が変わり、侍は消えたのか。

 時代はこの国に、持てる全てを捧げていた多くの侍たちを、いともあっさりと捨て去ったことは事実である。

 こう、なんでもそこから狂いだしたような気がする、というだけでは理論としてはおかしいかも知れないのだが。

 朝日に温められた生暖かい風に、最後の紫煙を吐き出す。

 そもそも。

「過ぎた過去を何時までもうだうだと数えるなんざ、愚の骨頂だ」

 わかっている、何度も飲み込んだ言葉を、幾度も飲み下す自分と似たあの男も若しや同じように、物思いに耽ることがあるのかも

しれないが・・・。

 兎角今のままでは、守るものを見定めることも、儘ならない。

 いつの時代でも、この掌から、大切なものが零れていく。

 零れたものを慌ててすくい上げても、一度手を離れたものは、なかなか元には戻らない。

 二度と合間見えることなく、失ってしまうこともある。

 時折、この関係を女々しいものに思うことがある。

「にしても・・・こういう年の数え方は、したくねえもんだな」

 自分で自分を嘲い、呟いた言葉の自虐性に気づいた。

 間抜けすぎるぜ、俺。

 いつか寝首を斯いてやろうとして、これじゃあ木乃伊取りが木乃伊じゃねえか・・・。

 自分に自分の強さを覚えさせたくて結んだこの関係は、そのくせ思う強さにはない甘さみたいなものに、誤魔化されたり絆されたり

なんざ。

 詰る様に重ねた身体と、熱い息使いに、溺れている自分に。

 いつかの追憶と、瞬きさえも許さないほどの粗振りに、確かなものなど何もないのだと、思い知る。

 思えば、身体は正直に欲しいものを求める。

 欲にはどう足掻いたって、敵いっこない。

 分かっているから、重ねる関係。

 空の青が鮮明になり、聡明を見出し、隊舎へとその足を向けて歩き出した。












おまけ。







 その首、頂戴。

 沖田は息を押し殺し、足を忍ばせ、殺気を真綿に包み、全ての気配を消しながら土方の自室に忍び寄る。

 静かに一息ついた後、目の前にある扉を開け放った。

「土方ァァァ! 覚悟しやがれェェェ!!」

 朝寝ながらも褥に身体を横たえていた土方は頭上に置いた刀を手に膝を付いた。

「俺の寝込みに仕掛けてくるたあ、甘いんだよ、このくそアマ王子が!」

「くそアマじゃねェ! 俺は姉上直伝の激辛王子だァァァ!! ・・・もしくは、どS星からきたサド王子だァァァァ!!!」

「何冷静にセルフ突っ込みしてやがるんだ。テメー、いい加減にしやがれこのどS王子が!!」

「そりゃァあんたを葬るためですぜ、土方さんよ」

 沖田はにやりと口端を上げる。

「俺は眠りたいんだよ、邪魔するんじゃねえ。稽古なら後でつけてやるからお前もさっさと二度寝しやがれってんだ!」

「うるせェ! 朝帰り同心にそんなこたァ言われたくねェんだよ」

「朝帰りって何を根拠にお前そんなこと言ってやがるんだ! いい加減なこと言ってるとテメーこそぶっ殺すぞ!」

「俺が何も知らないとでも思っていやがるんですかい、土方さん。だとしたらアンタ案外おめでたい頭してやがるんでさァね」

「おめでたいとは何だ、おめでたいとは。俺はそこまでおめでたくないぞ」

 土方はそういって沖田の首筋に刀を向け、本気を見せる。

 沖田は余裕でその切っ先を眺めると、土方にその手にある刀の切っ先を向け、向き直った。

 刀を軋ませる様に握り締める土方の表情には、一片の動揺もみられない。

 それがなお更に可笑しくて、沖田は嗤った。

「ならアンタ、今日の未明はどこにいなすったんで?」

「どこって、見回りだよ。自主的に見回りしてたんだ」

「やけに仕事熱心じゃないですかい、さすがは新撰組の副長様だ」

「ちゃかしんてんじゃねえ。マジでその刀、早く引きやがれ。でなきゃ俺がお前を殺る」

「これは望外、本気でいらっしゃるようで」

 沖田はそっと刀を引くと鞘に納めた、土方もやや遅れて刀を鞘に納め、息をつく。

「俺は疲れてんだよ。この事はなかった事にしといてやるからお前もさっさと部屋に帰れ。俺はもう一度寝る」

 素っ気無く呟くと、開けられた襖を閉めた。

 一向に去る気配がない。

 やがて襖の外から、沖田が呟く。

「・・・アンタ、その顔。まったく見甲斐のある朝寝顔ってヤツでさァ・・・朝までには何とかしといてくだせェ。でないと下のモンにシメシが

つきませんぜ、副長さんよ」

 バレバレで嘘が下手ですぜ。

 暗にそう言われた様な気がして土方は襖を閉じていた手をぐっと握り締めると、ズカズカと褥に潜り込み、豪快に上掛けを被る。

 秘密というものはどうも仲間内の中ではツーカーになるものらしい。

 ヤツを仲間とは思ったこと・・・ないが、多分、いやきっと一応仲間なのか?

 いやいや、そんなこたあない。

 多分、きっと。 ←笑






「なーなー新八ぃ。昨日の夜、銀ちゃん私を置いて1人でいそいそお出かけしたアルヨー。1人で一体どこに行ってたアルカナー?」

 新八はお茶を入れる手を止めると、ギクッとした表情をひた隠しに神楽を見て、営業スマイルと同じ作りの笑顔を浮かべる。

「いやー神楽ちゃん、多分きっと銀さんにも社会で適応していくためにそれ相応の接待的な何かがあると思うから、ほら、ねッ!

 銀さん!!」

 話を銀時に振ること自体が間違っている。

 銀時は魚の死んだような目をして「あー・・・そうそうそなんだよ、まったく困っちまうよなー行きたくもないのに」と生返事をして2人を見た。

「あー・・・。銀ちゃん、今ウソついたアルネ? もしかして、1人で美味しいものを独り占めしてたアルカ?」

「いや、そんなこたーない、そんなこたーないよ神楽ちゃん」

 いや、ある意味そうだろう、銀さん、きっとそうに違いない銀さん、僕の思ってることがはずれてる可能性なんて万に一つもないぃぃッ!

 新八は他人事であるのに内心、ドキドキしながら銀時の顔色をうかがう。

「だって毎月毎月大体満月の日には銀さんお出かけするアルヨ? しかも私が決まって眠った後で、私が真夜中にトイレに

起きても帰ってないアル。別に夜1人って言うのが寂しいわけじゃないアルけど、でも銀ちゃん、そのことに私が気づいてない

とでも思ってルカ?!」

 あああああッ!

 神楽ちゃん、駄目だよそれ以上は!!

 それ以上はR18指定以上、大人の事情だから聞いちゃ駄目だってぇぇぇッ!!!

 新八の顔色が青ざめていくのが分かる。

 銀時はそれを見ないふりで何時ものように適当を嘯いた。

「仕方ねーな、そこまで言うなら教えてやるよ。適当なこの地区の区の適当な男組合活動が毎月満月の夜に決まってあるんだよ、

そうそう、それで俺は出かけてるんだよ。お仕事だよ神楽ちゃん、組合活動っていうお仕事だけどそれが真夜中だから俺がひとりで

行ってやってるんじゃねーか。それをなんだい、どーだい!? 頭ごなしにそんなに疑ってかかりやがって。銀さんはお前たちのために

寝ずに組合活動してるっていうのにあんまりじゃないか神楽ちゃん」

 確かに、確かに!

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ある意味、組合だ!

 確かにそうだけど、だけど、銀さぁぁぁんッ!!

 新八の顔色がマックスに悪い。

「なんだー。そうだったアルかー、ごめんよ銀ちゃん疑ってしまってー。でも銀ちゃん、気まずいことや黙ってることがある時、

いっつも私のことちゃん付けて呼ぶアルから、なんかにおうって思ってたアルネー。そうアルカー、組合アルカー」

「そうそう。今度の時はなんか土産もん見繕って、買ってきてやるからよ」

「うわぁーーー! 銀ちゃんそれホントアルカ?! 男組合ってことは私は参加できないアルけど、お土産うれしいアルーー!

 うわーーーい! 私とっても楽しみにしてるアルねーーvv」

「あーあー、楽しみに待ってろよ神楽ちゃん、新八」

 銀時がいい加減に返事をする横で、新八は心配に打ち拉がれる心を堪えるために拳を握り締める。

 頼むから銀さん、神楽ちゃんが分からないかもしれないからって、如何わしい連れ込み宿においてあるような、ネーム入りの

アメニティとかお菓子とかは持ち帰ってこないで下さいよッッ!

 頼みましたからねッ! 銀さんッッ!!

 それぐらいは男として、男の沽券にかけて、自分のケツに責任持って下さいよッ!!!


(あー・・・いやぁほら、青姦だし、多分そこいらの屋台で何か適当見繕ってくるから、大丈夫じゃね? By 銀時) ←自己申告?









































2009.3.27up>2009.7.4lup SS by TAKATOH

Happy Birthday to NA●HI
May God bless you.

special thanks! EMUZU & ONMAE