Will






 He's so dreamy.
 I disappear like a dream.





 微かに聞こえるロータリーサウンドに部屋を出た。

 「おかえり」の一言だけでも、声をかけたかったから。

 さっきは、ケンタたちの手前、あえてこの件は忘れるなんて言った、正直、アニキがこんな時間まで何をしていたか、気になるけども。

 それがどうしてだなんて、何も、聞いちゃいけない気がして・・・。

 アニキの部屋に入り、少しだけ窓を開け風を入れ替える。

 夜明け前、ガレージにFCが納まり、エンジンが切れ、ドアを閉め、ロックする音が聞こえる。

 やがて響く、ポーチを歩く足音。

 やたらと耳が冴えていて、俺はとにかく落ち着こうと、大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。

 明かりをつけ、部屋の主が帰るのを待ち、ベッドに腰を下ろして目を閉じる。

「・・・啓介、どうした?」

 ただいまも言わずに、アニキは俺に優しく微笑んだ。

 無理してるって分かるような、その笑顔。

「ん、邪魔かと思ったけど・・・少しだけ話、したくてさ」

 昨日のアニキは朝から変だった。

 大学から帰ると(あの調子じゃ、たぶん大学には行っていないと思うけど・・・)、まるで喪章みたいな黒いネクタイと、白いシャツに着替

えて出て行って。

 それきり携帯も繋がらなくて、今頃になって帰ってきたんだから、それなりの用事ってことぐらい、想像付くけど・・・。

「そうか」

 アニキはネクタイを解くと、もう一度俺に微笑む。

「それで啓介。話っていうのは、なんだ?」

 穏やかな声色に、俺はその眼を見ながら呟く。

 今日は早くこの部屋を出よう。

 アニキはきっと、物凄く疲れてる。

 何も言わないけど、そう感じる。

 そう自分に言い聞かせた。

「うん・・・あのさ、アニキ」

 伝えたい言葉は一言だけなのに、口を付いて出る言葉が、やたらと今日の日のことを詮索してるくさくて、上手く言葉にならない。

 アニキは首を傾げて、そんな俺を見る。

 だけどその表情は優しく、ただ優しく微笑んでいて。

 無理してるの、凄くわかるくらいに。

 穏やかに笑ってて・・・・・・。

「今日はさ、携帯繋がらないって史浩が凄く心配してた。後から連絡入れてやってくれよ、マジで心配してたからさ」

「ああ、分かった」

 俺はとうとう居た堪れなくなって、ベッドから立ち上がった。

 アニキは腕時計を外してテーブルに置くと、小さく息を付いく。

 こんなに近くにいるようで、こんなに遠いアニキは初めてで、完全な拒絶じゃないだろうけど、どこかそうともとれる感じで。

 この部屋から出て行こうと、でもその前に一言だけどうしても伝えたいのに、どうしても伝えられない。

「・・・・・・・あのさ、アニキ」

 口をついて、アニキを呼ぶ。

 アニキのことをそうして呼ぶんだけど、その顔が見られない。

 伝えたいことも、話したいことも、沢山あるけど、俺はそれを聞かないって決めたはずなのに。

 アニキは俺が座っていたベッドに腰を下ろして、俺の手をぐっと引いた。

「お前もここに座れ。俺からも、話がある」

 結局俺は、されるがままに腰を下ろして、俯いた。

 アニキはそんな俺の頭を優しく撫でると目を伏せる。

 強くでもなく、弱くでもなく、もしかしたら何か安心したように。

「俺はもう大丈夫だ、啓介」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 それが何とも言わないくせに、何も言ってくれないくせに、そんな顔で俺のこと見るなよ。

 アニキはそれが何でかなんて言わないだろう。

 きっと、この先ずっと一生、話しちゃくれないだろうけど。

 俺は小さく頷いた。

 そして。

「ただいま、啓介」

 アニキは優しくそう言って、俺を見る。

 俺は、その優しい一言に、とにかく頷くしかなくて。

 そして何とか。

「・・・おかえり、アニキ」

 俺はできるだけ笑って、言ってみた。

 それは今日のアニキに、一番伝えたかった言葉。

 アニキは少し驚いたような顔で俺を見たけども、すぐに穏やかに、静かに笑った。

 いつもよりも憔悴して見えるけど、でも、それだけじゃない。

 もしかしたらそれは、何かを乗り越えることが出来たからこそ、できる微笑なんだって、思えるくらいにアニキは笑っていた。

 その後になってから、何気に伝わった情報だけど、どうも過去に、アニキがオンナを取り合ったって話を聞いた。

 あの頃と季節が合うから、もしかしてそれが原因なのかって思う。

 で、オンナを取り合ったって言う、その先輩の渾名が「死神」だって聞いた時。

 こういうのって不謹慎なんだろうけど、俺は思わず笑った。

 アニキが死神と言われてる人と、恋人取り合ったってか?

 ンでその結果、2人とも神様にそのオンナを取られたってか?

 なんの洒落だよ、つか洒落になんねー。

 どんだけだよって、俺は笑えたんだ。

 でも、その後に。

 もしもということが、この先にあるのなら。

 一縷の望みでもいい。

 アニキがもう一度、心から誰かを愛せるように、俺は祈った。







 I pray.
 You longed, "You" to be That smile, and Happiness.








2010.6.25up

Text by TAKATOH
Photo by ONMAE