酔っぱらいの告白 by 日和 |
峠から帰ってきた啓介は、リビングに灯りがついているのを見つけて顔を出した。 親父が酒でも飲んでいたら相伴に預かろうという腹づもりだったのだが、そこにいた のは以外にも涼介だった。 「あれ? アニキ帰ってたのか」 「ああ、何とか今回分は終わったんでな」 開放感からか幾分柔らかな雰囲気の涼介に啓介も擦りよりやすい。 「んじゃ、明日………つか、今日は休み?」 「こら、啓介」 涼介が飲んでいたグラスを目敏く見つけ、奪い取った啓介がグラスを中身を空ける。 「少しぐらいならいいだろ?」 許してもらえると確信犯な笑みで見ると涼介は苦笑しながらもう一つグラスを出し てくる。 一人で飲むには味気ないと思っていたと笑う涼介に、嬉々として啓介はグラスを差 しだした。 峠の走りのことや近況を酒のつまみに飲んでいるとグラスは四度空になり、五度目 を満たすころになると啓介の言動が怪しくなってきた。 「いい加減飲みすぎだぞ、啓介」 「酔っぱらってら〜い」 酔っぱらってないと本人は言っているのだろうが、酔っぱらいとは自分が酔っていない と思っている人間が得てして多いものだ。 酔っぱらいは見苦しいし、あまりいい思い出のない涼介は飲ませすぎたかと眉をひそ めた。 「呂律も回ってないのにか?」 しばらく、意味不明なことを酔っぱらいの陽気さで叫んでいた啓介だが、アルコールも 飽和状態になったらしくくったりとソファに身体を預け大人しくなった。 朝まで熟睡コースだと涼介は散乱している瓶やグラスをかたづけはじめた。 明日になればアニキだけにかたづけをさせたとしょんぼりしてしまう姿が想像できたが、 このままにしておくのも落ち着かない。 とりあえず「酒は飲んだが、かたづけはした」程度にしておかないとあとで台所を預か る母親に小言をくらうことになるだろう。 粗方かたづいて啓介の様子を見るとソファの上でごろごろと寝返りを打っている。 「啓介? スポーツドリンクでも飲むか?」 「ぅ……」 涼介の問いかけにごそごそと起きあがった啓介は、涼介の手からペットボトルを受け取 ると目を開けないまま手探りで器用に蓋を開ける。 そのまま砂時計の砂が落ちるように休憩することもなく一気に飲みほした。 「………はぁ、うまい」 飲みほしたあとでようやく目を開けた啓介が満足そうに腹に手をやる。 そのいかにも満足しましたという動作に涼介は苦笑を禁じ得ない。そのままソファに横 になろうとした啓介を押し止めて部屋に帰るように促す。 「歩けるようだったら自分の部屋に戻って寝ろよ」 涼介の言葉に啓介がへへっと笑った。 「何だ?」 「アニキがさぁ、アニキでよかったなぁ」 何の脈絡もない言葉に涼介は面食らった。 どうやら、啓介は目が覚めたわけでもなく酔っぱらいのままだったらしい。 言葉もない涼介に啓介はさらに続ける。 「俺ね、アニキのこと大っ好きぃ。あ、でもアニキには内緒だかんなっ」 「本人なんだがな」 どうやら涼介のことを涼介と認識していないで喋り続けているらしい。本人を目の前 にして内緒も何もあったものじゃないだろうに。 「んで、いつかアニキに甘えてもらうんだ」 「甘えてもらう?」 あまりにも普段の涼介の行動とはかけ離れたことを言う啓介に思わず問い返してし まう。 「そうっ!」 啓介が満面の笑みを浮かべながら頷いた。 「わがまま言ってもらえるぐらいになるっ」 啓介は上機嫌に言い切ると再びソファに懐いて動かなくなった。 「啓介?」 涼介の問いかけに寝息が答える。 「ずいぶんと活きのいい」 苦笑からのぼるものは何とも温かい。 部屋まで運ぼうと肩に腕をまわすと全てを預けて寄りかかってくる。その重さに笑み を浮かべて呟いた。 「………甘えているよ」 甘えることを知らないわけじゃない。 誰よりも啓介、お前には甘えている。 啓介からすればそんなの甘えじゃないと怒られるだろうが、それでも充分に甘えてい るのだ。 額をつきあわせて涼介は笑んだ。 酔っぱらいもたまには悪くはないと。 「う………あったま痛ぇ」 啓介は自分の酒臭さに閉口しながら立ち上がった。 昨日の記憶は飲みやすい貰い物のウォッカを三杯飲んだぐらいから薄れている。 「………はよ」 「すごい寝癖になってるぞ」 新聞を畳んだ涼介が笑いながら啓介の寝癖を指摘する。 一緒になって飲んだはずの涼介は、朝から近隣の住民に騒がれるような爽やかさを見 せていた。 自分だって弱いはずじゃないのにと啓介はずきずきと脈打つ痛みに顔を顰める。 「あ、あのさ」 「何だ?」 「かたづけ、アニキしたんだ?」 言い難そうに啓介が涼介を上目遣いに見る。 「簡単にな」 昨晩の想像通りに啓介は耳の折れた犬のようにしょんぼりと俯いた。 「ごめん」 「動ける人間がすればいいことだろう」 「でも、ごめん。あとさ………俺、なんかした? いや、何か曖昧な感じでさ」 全部忘れたわけじゃないと微かに意地を見せながら、それでも何かしたんじゃないか と窺うように啓介が涼介を見る。 その質問に涼介は一呼吸おいた。 間が空いたことに啓介は不安そうに涼介を見つめる。 「何か言っていたようだったが、呂律が回っていなくてよくわからなかったな」 「あ、そう。そうか、ならいいんだ」 「悪口でも言ってたのか?」 「ちっ、ちげーよっ」 即座に否定しながら、けれど何を言っていたのか覚えていない啓介は、誤解されたく ないと狼狽える。 悪口どころかあれは愛の告白だと内心涼介はニンマリしながら、それをおくびにも出 さずに話題を転換することにした。 より惚れた方が負けだというのなら、負けっぱなしだ。こればかりは勝とうとは思わな い。 それでも、年上としての矜持というものは保ちたいからな。 「啓介、峠に行くか?」 「アニキさ、それ言えば俺の機嫌なおると思ってねぇ?」 「違うのか」 涼介の笑い混じりの問いかけに啓介は俯いて唇を尖らせている。 「…………ょ」 「ん?」 「そうだよ。悪いかよっ」 「悪くはないさ」 涼介の浮かべた笑みに啓介は思わず見惚れてしまう。 「とりあえず、シャワーでも浴びてこい。走るならな」 短く返事するとばたばたと啓介が部屋から出ていこうとする。 その背に意地悪く声をかけた。 「あんまり遅いとおいていくぞ」 「すぐ出てくっから! 待っててくれよ、アニキ」 念を押して出ていった啓介に涼介は静かに笑った。 「ああ、待ってるよ」 きっと髪から水を滴らせながら出てくるだろうと予想しながら、涼介はコーヒーでも入 れるかと立ち上がった。 啓介の願いはすでに叶っているのだと気づくのはまだ先のことだが、涼介の我が儘な甘 えたぶりが発揮されるのは案外すぐかもしれない。 おわりvv |
日和えむずさんから頂いたSS(^^*) 冬ですね〜 忘年会、そして新年を迎えるとついつい度を越して飲む機会が多くなりますね〜 お酒は飲んでも飲まれるな、の名言と共に、でもこんな可愛い啓介を介抱するなら彗星様は幸せよね〜vvと 思う御前でした。 |