Don't Say Good Bye. Novel by 夕冴 |
『さようなら』 その言葉を吐いたのは、俺。 でも。 アンタが他の誰かのモノになるなんて、考えもしなかった。 ソレは、ドイツのレーシングチームに在籍する俺に届いた。 一通の、手紙。 『今度、結婚する事になった』 アニキらしいクセ字で、書かれた。 その事。 そんな手紙を見て。 一滴、頬を伝うモノ。 アンタを捨てて置きながら、俺は。 傲慢にもヒトリ、泣いていたンだ。 そして。 手紙に落ちた涙が、乾く頃。 ソレは、突然。 俺の目の前に、現われた。 インターホンを鳴らして。 変わらぬ容貌と、愛しさで。 俺の前に現われた、アンタ。 「啓介、久し振りだな」 そう、微笑まれて。 俺は、どんな顔をしていただろうか。 立ち話なんか、できなくて。 通した物の無いリビングを、見て。 アニキはちょっと、驚き顔。 「お前にしては、綺麗じゃねぇか」 珈琲を入れた俺に。 ソファに座ったアニキが、そう笑う。 嗚呼。 笑顔さえ、変わらぬヒト。 でも。 アニキは手紙に付いては、何も言わず。 時計の秒針だけが、過ぎて。 まるで。 昨日も合ったばかりのように、淡々と。 世間話や近況を、語る薄い唇。 俺はソレに、何も言えなくて。 模倣の笑顔を張り付かせたまま。 アンタの顔を、見るだけで。 そして。 時間だから。 「帰るよ」 立ち上がったアンタに、頷くしかなくて。 玄関まで見送る俺は、アンタの背中。 如何仕様もない、寂しさを抱え。 なのに。 アンタは、残酷に。 「お前は、シアワセになれよ」 最後に一言、ヒドイ事を言う。 我慢なんて、出来なくて。 アンタの背中が重い扉に隠されてしまうのを、確かめてから。 俺は。 もう前を見る事も、出来ず。 冷たい床に蹲って、耳鳴りが頭の中を駆け巡るのを聞きながら。 泣いて。 一言だけ。 「アニキ、愛してる…」 真実を、言う。 嗚呼。 それなのに、なんで。 アンタのソノ腕の温もり。 アンタのソノ優しい匂い。 ソレが。 俺を、抱いて。 「啓介……」 愛してるなら、なんでサヨナラなんて言うンだと。 アンタが、聞くから。 だって。 アンタの未来を壊す訳には、いかないじゃないか。 アンタには如何しても、シアワセになって欲しかった。 ソレは、嘘じゃなくて。 でも。 俺は、アンタしか愛せないのも。 また。 事実であって。 引き摺り込まれたベッドの中。 アニキが。 「コレは、賭けだったんだぜ?」 お前がもう一度、俺に振り向いてくれるか如何か。 別れたアノ日から、今まで。 もう一度お前を、取り戻したくて考えていたのだと。 アニキは。 苦く笑った。 俺は。 そんなアニキに、泣き笑いで返して。 「好き、アニキ…愛してる」 バカみたいに、ソレしか言えなくて。 そんな言葉に反応したアニキに、強姦紛いなやり方で。 撓められながら。 「二度と、サヨナラなんて言うんじゃねぇッ」 何度も、約束させられて。 そして。 俺は二度と。 『さようなら』 を、アニキに。 言えないようになった。 アンタは。 『さようなら』 その言葉を使う時は、一度だけ。 死が。 俺たちを別つ時だけだと、言ったケド。 どうか。 死さえ俺たちを、別つ事のないよに。 願わずには、イラレナイ。 次の日。 空は生憎の雨。 けど。 アニキの表情は、優しく晴れて。 俺は。 一路、アニキと共に日本へ。 アニキは、全てをブチマケル覚悟らしく。 俺に。 「ゼンブ捨てて、お前とずっと一緒だ」 そう、笑って。 俺の手を、取った。 「当機はこれより、日本へ……」 機内アナウンスを耳に、雲の上。 アニキと手を、繋いだまま。 俺は、これからのシアワセを思ったけれど。 嗚呼。 なんて、悪戯だろう。 辺りに響く、ヒトの悲鳴。 揺れる、機体。 窓から見える右翼から、煙が上がって。 降下させる、重力の感覚。 「アニキ……」 手を、繋いだまま。 慌てるでもなく、静かに呼んだ俺に。 「啓介……」 アニキも、穏やかに笑ってくれて。 手に、力を込める。 お互い。 『さようなら』 と、紡ごうとする唇を。 キスで塞いで。 「ずっと、一緒だよ?」 「ずっと、一緒だぜ?」 シアワセだなと、笑い合って。 手を、繋いだまま。 その瞬間を、待った。 『さようなら』 なんて、言わないで。 死さえ、俺たちを別つ事のないように。 その願いは、きっと。 カミサマが聞き届けて、くれたンだ。 もう。 『さようなら』 なんて、言わない。 End. |
ひょんなことがきっかけでいただくことが出来た夕冴さんのSS。 死んでいくはずの二人が幸せなのは何故だろう? 私がいただいたSSを読んで呟いたのを聞き逃さなかったT氏が私に言いました。 愛し合うもの同士、手に手を取って死ねるなんて… それは最高に幸せだ、憎らしいくらいに…羨ましいな。 ああ、 ほんとに、憎らしいくらいに幸せだね。 それから、 それは、私には出来ないことだから、 涙が止まらなかった。 夕冴さん、素敵なSSをありがとう御座います。 今度ゆっくり飲みに行きましょう。 Song by 煉獄庭園 様 |