mine count get 2999HIT "RYOUSKE & KEISUKE"


□  春 を 待 つ 心  □    




by  鮎 川 祥 子









広く、広く見える雪原。
その下に、大いなる神が住む湖が眠っている。



「見事に真っ白だよなぁ……」

赤城神社へと渡る桟橋の上。
氷の上に雪が積もった大沼を見つめながら、啓介は手すりに頬杖をついた。

高崎は、既に桜が開いて春真っ盛りだというのに。
ホームコースである赤城の山頂は、今だ冬山の様相を残していて。


まるで時を遡るかのような、違和感。


「なぁ、アニキ?」
不意に啓介が振り返って。
涼介は、薄く目を細めて。その隣へと立ち並んだ。

「なんか、変な音しねぇ?」
「音?」

黙って、耳を澄ましてみれば。
確かに、ぱきっという微かな音が届いて。

「氷が割れている音だろう」

今日は陽射しも暖かいし。
そろそろ、赤城の山にも春が訪れ始めているのだろう。

笑いながら、啓介の肩にさり気無く腕を回して。
涼介は、啓介の耳元で。そっと囁きを漏らす。


「春の音、だな」


ようやく訪れる春。
これから始まる一年は、二人にとって―――特別なものだから。


「……アニキ」

不意に、啓介が頬杖を外して。
真直ぐに、涼介を見据えるようにする。


その表情は、真摯なものだったから。
涼介は少し驚いて。ただ、啓介が口を開くのを促すように、軽く頷く。

「オレ―――誰にも負けねぇから」


プロジェクトDのエースとして。
高橋涼介の弟として。
そして何より―――レーサーを目指す身として、誰にも負けるわけには行かないから。

だから、ここで誓う。
涼介の為に走る一年なのはもちろんとしても、必ず成長して見せると。


「藤原には、負けたくねェ」

同じチームのメンバーになった、藤原拓海。
だが、その彼が一番のライバルだから。

「だから……」

真直ぐな眼差しが、涼介を捕らえて。
不意に、その腕が差し出された。


「一年間……ヨロシクな、アニキ」

照れたように笑った啓介に嬉しそうに笑みを浮かべて。
涼介は、力強くその手を握り返す。

いつのまにかこんなにも頼りがいのある男に育っていた弟。
愛しい彼の、内面での成長に。
喜び、嬉しさ、愛らしさが募って。


「―――ッ」
不意に唇を掠めた感触に、啓介は驚いたように一歩退いて。
真っ赤に染まった顔が、ほんの少し見開かれた瞳が、涼介を見つめる。

「何……っ」

真昼間、しかも観光地での兄の所業に、嬉しいよりも驚きが勝って。
啓介は唇を手で押さえながら、涼介を少し睨み付けるようにする。

「すまん。お前があんまり可愛いことを言うから……」
「って、オレの所為かよ!」
「悪かった。続きは帰ってから、だな」

さらりと吐いて、艶然と微笑んだ涼介に。
啓介は、返すべき言葉を失って。
がっくりと。項垂れるように、肩を落とした。



もうすぐ、峠にも春がやってくる。
そして、それが。

―――プロジェクトDの始動を、意味していた。











御前のわがままで鮎川様から頂きました、SSです。

どうか今、静かに目を閉じてください、

赤城の春が、貴方にも垣間見れるはずです。


鮎川様、本当に、本当に、ありがとう御座いました(嬉)。



2004.3.30up