+桜の花の満開の下+





「………ぁ、っ」

昼ひなかからこれはどうだろうと思う。

暖かな光が降り注ぐ明るい部屋の中でオレは、肌蹴られたシャツの内側へアニキの手を受け入れ

ていた。それだけでぞくぞくする痺れが肌を伝わって頭の中が真っ白になる。

身体からあっさりと力が抜けていってしまう。



春が眩暈する程大気に満ちている、と思う。

桜が咲いている間、オレはおかしくなる。身体中がざわざわして落ち着かなくなる。

体温が上がる。肌が酷く敏感になる。

元々、春先はよくない、と思っていた。どうしてこんなに熱が篭ったように苦しいのか判らなくて、落

ち着かない期間を過ごしていた。

アニキと肌を合わせるようになって、それは明確な発作になった。

まるで猫のように。



家には居られなかった。

滅多に訪れる事の無い別荘に引き篭もって二人、熱に身を任せる。

少し平地より寒い此処は今が桜のシーズンだった。春休みも終わった平日に別荘へ来る奴は少な

いし、仮に前を通ったとしても、建てた祖父の趣味で植えられた桜や楓がまるで森のように建物を

隠している広い庭に掻き消されて、声は漏れないだろう。

だからアニキはもっと、声を聞かせろと言う。



「ゃ……、さ、わるな………っ」

首筋に指先が触れただけで、背筋がぞくりとする。シャツを脱がせる他愛の無い仕草にさえ、触れ

られた肌がざわめいて、声が掠れてしまう。

「服なんて着る必要はねえだろう」

直ぐ脱がせるのに、とアニキは小さく笑う。確かに、着ている時間よりずっと、裸でいる方が長かっ

た。さっき、湯から上がったばかりの素肌はまだ湿っている。

「……綺麗だな」

なにが、と問うとアニキはオレの胸を指差した。其処には無数の紅い痕が肌を飾っている。花弁の

ように。

もっと、とオレはアニキの頭を抱き寄せた。新しい痕を付ける痛みが、首の下に走ってオレは熱い息

を零す。

「………てぇ……」

もう、散々触れられて鈍くなってもいいだろうに、肌は感じる事を止めない。胸なんかはもう、指が掠

めただけで痛むくらいだった。

「……止めるか?」

そんな積もりは無い癖に、アニキは顔を上げる。いつもより我慢が利かないオレは、首を横に振ると

、アニキの背中を抱き締めた。

「………ん、っ」

ずっと、桜が散らなければ、と思う。

ずっとこのまま、居られたら、いいのに。

途方に暮れる程完璧な青空の下で、そう願いながらもいつかは必ず散るものだと、終わるものだと

知っている。

「……ん……っ…」

酷く静かに睦みあいながら、その現実から目を逸らしている。

だけど、判らない。

自分達の関係がどういうものなのか。

判りたくも無い。

いつか、終わってしまうだろうことなんて。きっと、一生、ずっと。

「ぁっ………」

離さない。

ぎゅ、っと抱き締めたアニキの背中へ爪を立てた。この傷がずっと、消えなければいい。

オレの胸の痕も。お互いがお互いのものである事をずっと証明し続けてくれたらいい。

きつく瞑った瞼から涙が零れた。

「啓介?」

気遣うような声に、目を開ける。滲んだ視界の中で、アニキの頬へ顔を寄せた。

「ヘーキ……。続け、て」

柔らかく頬へ口吻けられて、胸が軋む。

こうして、繋がったまま消えられたら幸せだろうか。

「もっとくれよ、アニキ」

「……啓介」

強く、揺さぶられて抱き締められて、涙が止まらない。ぎゅっと瞑れば滲んだ景色が一瞬だけ目に

映って、直ぐ判らなくなった。

ぼんやり、アニキの肩越しに淡い色が揺れている。

今は居るから、此処に。

オレは目を閉じると幾度目かの快楽の波に身を任せた。

もう何も考えられないように。



桜の花の満開の下で、こんなに幸せなのにとても哀しい。

春だからだろうか。

それとも、桜の所為なのか、誰にも判らない。









うららかな春。

世界中が幸せであるかのような錯覚に襲われる。

それでも春なのだ。

優しい流れ、だけど紡がれている言葉はとても切実なような、散り急ぐ、花のような。

嶋末さん、ありがとう御座います(^^*)

大事に、大事にさせていただきますね。